7月の参院選後、日本の医療制度を巡る議論が再び熱を帯びています。
その中でも注目を集めているのが、「OTC類似薬(市販薬と同成分の処方薬)」を健康保険の適用から外すべきかどうかという問題です。
OTC類似薬は、必ずしも軽症患者だけに使われる薬ではありません。
慢性疾患の管理や在宅療養など、治療に欠かせないケースも少なくありません。
そうした薬が保険適用から外れる可能性があるという話題に、不安を感じている患者さんも多いでしょう。
今回は、OTC類似薬の保険適用外化について考えていきます。
■ OTC類似薬とは?
OTC類似薬とは、市販薬(Over The Counter)と同じ有効成分を含む処方薬を指します。
風邪薬や胃腸薬、湿布薬など軽症にも使われますが、高齢者や持病のある患者の在宅医療、慢性疾患や難病治療にも活用されています。
■ 日本医師会が反対する理由
8月6日、日本医師会の江澤和彦常任理事は、OTC類似薬の保険適用外化に改めて反対を表明しました。主な理由は次の3点です。
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経済的負担の急増
保険が外れると自己負担は30倍以上に増え、医療アクセスが経たれる恐れがある。 -
医療現場への影響
在宅医療や難病治療にも使われており、除外は治療継続を妨げる可能性がある。 -
自己判断のリスク
市販薬は用量や相互作用の判断が難しく、誤用による重症化の危険がある。
薬剤師の立場からもこういった懸念はもっともだと感じます。例えば花粉症や鼻炎、皮膚炎に使用される抗アレルギー薬の中には、緑内障や前立腺疾患がある患者さんは飲んではいけない禁忌となっています。また、小児では熱性けいれんの発症を高める抗アレルギー薬もあります。こういったことを患者さん自身が判断するのはリスクがあると思います。OTC類似薬の保険適用外を進めるのであれば、そういった点をどう解決するのかもしっかりと政策に組み込む必要がありますね。
■ 負担増に疑問
OTC類似薬が保険適用から外れた場合、最大で40-50倍の負担になると想定され、疑問を感じます。
例えば、メジコン(咳止め)の場合、薬価は1錠8.6円。20錠処方されれば薬価総額は172円で、これが10割の価格です。窓口負担が3割なら51.6円になります(※実際には病院や薬局でこの価格に診察料や技術料などの加算がつきます)。
一方、市販薬のメジコンは20錠入りで1,529円。
この価格差は適正と言えるのか?
もし保険適用外とするのであれば、薬価を基準に、必要最低限のパッケージや流通経費のみを加えた価格設定にするなど、国民負担を抑える仕組みが必要です。
■ OTC類似薬を保険適用外にする落とし穴
薬剤師としての視点から見ると、この議論には落とし穴があると思います。
OTC類似薬の保険適用外化が進むと、医療現場で「患者獲得」のために、より強い保険適用薬を処方するという事態が起こる可能性があります。
たとえば、メジコンが対象外になれば、より強力な咳止めを、ガスターが対象外になれば、より強い胃酸分泌抑制薬を処方する…といった具合です。
そうなれば、結果的に医療費をさらに押し上げ、副作用リスクも増大させかねません。
つまり、「軽症薬を削って節約」のはずが、制度設計によっては逆効果になり得るのです。
■ よしざわえりの提言
OTC類似薬については、保険適用を外すよりも、適切な処方の徹底によって処方削減を進める方が現実的だと考えます。
OTC類似薬を保険適用外にするという政策は、まさに木を見て森を見ずの発想です。
本来見直すべきは、不要な薬が際限なく処方される今の医療システムです。
そこを改革せずに医療費を減らすことはできません。
まだまだ、議論が必要な問題だと感じます。
皆さまは、どう感じますか?